4元数から広がる「リーの理論」の世界
このページはマス旅の一部です。
これまで、4元数を計算方法と利用方法という視点で見てきました。
今回は4元数がそもそも数の拡張の流れで生まれており、なおも古びない数学探求の源泉でもあるという面をさぐってみよう。
<4元数以前>
実数Rのよいところは有理数でできなかった数の連続性と無限性を敵に入れたことだ。
たとえば、四則計算だけでなく、指数・対数計算により積商計算を和差計算に置き換えることができた。二項定理に連続性と無限性を絡めることで、関数のテーラー展開につながった。
また、三角関数を定義することによって、関数のフーリエ展開にもつながったね。
複素数Cのよいところは、代数方程式が解ける、解が表示できることだ。
さらに、オイラー等式によって、指数関数が三角関数と同じ周期関数として行き来できるようになったことが大きい。それだけではない。実関数を解析接続することで、次元を上げることで局所的な正則をつなぐというトリッキーな発想や、リーマン面やリーマン球面による空間の対応性の技によって、特異点や困難を除去することができた。
4元数Hのよいところは、3次元よりも次元が上がったことで空間の3つの軸から自由になり、
回転制御や回転の連続性に破綻がなくなったことだ。
でも、4元数のよいところは、CG、航空工学のような特別な場面だけのものなのだろうか。
4元数は可換性こそ手放したけれども、
リー群、リー環という微分可能な多様体での空間分類や変換の分析という、
数学の王道で活躍するツールでもあったのだ。そこのところを見てみよう。
1.体としてのH
<斜体としての4元数>
今後、実数をR,複素数をC、4元数をH、8元数をOとかきます。
フルヴィッツの定理によれば、
ノルムの乗法性 |xy|=|x||y| が成り立つ実数上の正規化分配代数(ノルム付き除算代数)は、
R,C,H,O の4種類しか存在しません。
8元数Oは7次元、8次元の空間の分類に役立つものといわれています。
Hは4次元、3次元に役立つので、その点身近ですね。
R,Cは交換法則が成り立つ体なので、ふつうの体ですが、Hは交換法則は成り立ちません。
そこに気をつければ、数としていろんなことができるはずだね。
Hは基底ベクトルがi,j,kの3つあり、
基底の積にi^2=j^2=k^2=-1, ij=-ji=k,jk=-kj=i,ki=-ik=jの関係があった。
この基底の他に実数基底1をとることで、1,i,j,kの4つの基底ごとの係数を並べる表示(a,b,c,d)や、
1次結合q=a+bi+cj+dkやq=qr+qv(実部+虚部)などの表現があった。
qの共役q*=qr-qv=a-bi-cj-dk=(a,-b,-c,-d)のように虚部の符号が反転した。
また、
q=a+bi+cj+dk=(a+bi)+(c+di)j=r+sj(r,sは複素数)
というように、
複素数r,sを係数とする「虚数単位jの複素数」という書き方もできるね。
qの絶対値は複素数と同様に、|q|=√qq*で定義する。
q=0のとき、a,b,c,dはすべて実数なので、0=(0,0,0,0)となる。
では1はどうだろうか、a=1で他はゼロにして、1=(1,0,0,0)でいいね。
|x|=1についてはどうだろう。
Rの±1が2つだけだったのに対して、Cでは基底の1,iとそのー1倍はもちろんのこと、
|z|=1は複素平面の単位円周上の点だから無数にある。
ということは、Hで|x|=1と言ったら、基底1,i,j,kとそのー1倍はもちろんのこと、
4次元空間の単位球面上の点だから無数にあるでしょう。
さて、Hでも指数関数と対数関数が定義できます。
そのためには、要素表示を簡略化する必要があるね。
単位純四元数 u=v /(|v |) (ただし u^2=-1)を定義すると、
q は複素数と同じ形式 q=a+|v |u で表せます。
すると、
指数関数 exp(q)
テイラー展開 exp(x)=∑_(n=0)^∞x^n/n! に q=a+θu (θ=|v |)を代入すると、
u^2=-1 の周期性により以下が導かれます。
exp(q)=e^a (cosθ+u sinθ )
これは、オイラーの公式の完全な拡張です。
対数関数 ln(q)
指数関数の逆として、極形式 q=|q|e^uθ (ここで θ=arccos(a/|q|))を用いることで
対数関数が求まります。ln(q)=ln| q|+uθ
また、要素を並べるときに、基底方式ではなく、行列表示というものでも、
機能的には同一の体ができます。
Rの要素z,yを使ったCの元x+yiに行列{{x,y},{-y,x}}を対応してみると、
このMJ(2,R)はCと同一視できることがわかる。
同じように、
Cの要素a,bを使ったHの元a+bjに行列{{a,b},{-b*,a*}}を対応させてみると、
このMJ(2,C)はHと同一視できることがわかるね。
2.リー群とリー環
<一般線形リー群>
さて、
ここまで準備すれば、
リー群という位相群を扱うための数体Kとして、R,CだけでなくHも使うことができるようになるね。
数体K=R,C,Hのとき、積の結合、1、逆元の存在がある行列M(n,K)を一般線形群GL(n,K)という。
群Gが位相空間で、積写像G×G→Gと、逆写像G→Gがともに連続のときに、Gを位相群という。
位相群の中でも、Gが無限回の可微分多様体で、積写像と逆写像も無限回可微分であるときに、GをLie群という。
どういうことでしょか?
Lieというのは人名です。リーさんのアイディアは、各点の変化の記述である微分方程式からもとの曲線を積分によって求めるように、図形の各点の接点のベクトルを微小に変化させる変換の要素を集めた連続群によって、それをつないでいくことで曲線を求めるという発想です。
近代の微分方程式とはちがい、図形は多様体、つまり、多要素の元を点としています。この点を連続的に動かすことが、点どうしの演算につながるのです。だから、行列だろうと、4元数だろうと、多要素の元だから、点どうしの積と逆算ができれば、それがGLとなり、連続群、位相群ならばLie群になるということですね。
結論、正則な行列というだけの一般線形群GL(n,K)がリー群だということです。
リー群はごく普通の行儀のよい行列の別名ということだね。
だから、一般線形群GL(n,K)に条件をつけた次のグループもリー群になるのです。
Oは原点を動かさない回転群で、SOは裏返しのない回転群です。
SL(n, C)={A in M(n, C) | det A=1 } 複素特殊線型群
SU(n)={A in M(n, C) |A*A=E, det A=1 } 特殊 unitary群
SO(n)={A in M(n, R) | tAA=E, det A=1 } 特殊直交群(回転群)
SO(n,C)={A in M(n, C) | tAA=E, det A=1 } 複素特殊直交群
でも、自動的にリー群になることはわかったけれど、リー群の性質がわからないと
だからどうしたということになる。
<リー の理論>
「リー群」の性質は「リー環」の性質から明らかになります。
さっきのリーさんの発想を思い出してください。「図形の各点の接点のベクトルを微小に変化させる変換の要素を集めた連続群によって、それをつないでいくことで曲線を求めるという」発想です。
この接ベクトルという代数的なあつまりが「リー環」です。そして、微小変換の連続群、解析的なあつまりというのがリー群です。微分方程式を解くように、「リー環」の情報を使って、微分に対応する接ベクトル情報を微小変化というつなげ方「リー群」の情報に置き換えて、もとの「リー群」自体、曲線情報を調べることができるはずですね。
リー群は無限回微分可能、なめらかな位相群、つまり、ぐにゃぐにゃ図形ですね。
それに対して「リー環」は代数的な空間です。
#リー環
K=R,C とする有限次元Kベクトル空間 gの任意の2つの元X,Y に対して gの元[X,Y] が一意に定まり,
次の 4条件
(1) [X+Y,Z]=[X,Z]+[Y,Z]
(2) [λX,Y]= λ[X,Y]
(3) [X,Y]= -[Y,X]
(4) [X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+{Z,[X,Y]]=0
が成り立つとき空間gをK-リー環という。
(1)(2)からリー環の線形がわかりますね。リー環は、まっすぐな空間、接空間です。
ぐにゃるリー群に対して、平らなリー環をうまく対応できたらいいですよね。
そこでexp写像(マッピング)が登場します。
K=R,C,HとするときのM(n,K)の行列Xに対する指数行列M(n,K)を
expX=E+X+X^2/2!+X^3/3!+.....+X^m/m!+....とする。
|Xl=x とおくと |X^m|≦ |X|^m
|exp X|≦√n-1+e^xとなり、絶対収束するので、
X,YがXY=YXなら、exp(X+Y)=expXexpY,expX-1=exp(-X)という指数法則が成り立ちます。
また、expマッピングM(n,K)→GL(n,K)は連続であり、exp(P^{-1}XP)=P^{-1}(expX)P
Gを線型 リー 群,gをその リー環とするとき
Gの単位元 E の近傍 Uが存在し, Uの任意の元Aはgの元を使ってA=expX
と表わされる.
これが、リー 環と局所的に見た リー 群が1対1 に対応するというの 有名なリーの理論です。
まっすぐで代数計算できる足場である 「リー環(接空間 g)」 の元 X を「指数マップ exp X」に放り込むことで、曲がった広大な解析的な 「リー群(多様体 G)」 の単位元Eの近傍の空間構造が完璧に映し出されるのです。まあ、「リー環」という地球の表面で滑らかに動きまわる人間たちの仲間が「リー群」
というイメージですね。私たち人間の動きをつないでいけば、地球の表面を覆えますからね。
また、ベクトル空間としてみているのだから、局所的に次元が等しくなるということです。
dimG = dim g
素晴らしい構造です。
圏論ビルでやったようなクロスオーバーをしたら、代数と解析が表裏一体になったということですね。
線形代数、群論、微分が圏論的につながった結果ともいえるでしょう。
現代数学の特徴を見るようです。
ということは、リー群、リー環は底なし沼のように、巨大なクロスオーバー宇宙を作りだすのですね。
とても1ページで語りつくせない広大さがあるということです。
運動群を分類したり、次元ごとの図形を分類したりと、とても幅広く研究が進んでいるようです。
また、リー群の次元を無限にすることで、量子力学・素粒子の研究にも役立っていると聞きます。
3.振り返り
4元数を知ることで、
リー群とリー環の関係性(リーの理論)に気づくことができたね。
そこで、あえて4元数という素材にこだわらすに「リーの理論」を
もっと簡単な例を使って視覚化してみよう。
課題:リーの理論を視覚化しよう。
タイトルは「リー環からリー群にexpでマップする」
t=slider(-2pi, 2pi,0.01) #パラメータtをアニメーションします。
SO2:Circle((0,0),1) #リー群(微分できる多様体、解析的です)色は赤
E(1,0) #接点Eで色は紫
so2:x=1 #リー環(Eでの接空間、代数的です)色は青
P=(cos(t),sin(t)) #多様体の点です。色は赤
Q=(1,t) #リー環の点です。色は青
f=Segment((0,0),P)
expM=Vector(Q,P) #expマップを表す→です。点線で色を青にして強調しましょう。